問題社員対応で会社がやってはいけない指導方法とは

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社員の皆さんが安心して働ける環境は、企業の持続的な成長には不可欠です。しかし、業務上の課題を抱える社員、いわゆる「問題社員」への対応に頭を悩ませる企業のご担当者様もいらっしゃるかもしれません。適切な指導は社員の成長を促す一方、一歩間違えれば、ハラスメント問題に発展したり、企業の信頼を損ねたりするリスクも伴います。

今回は、厚生労働省などが示す情報を基に、会社が避けるべき指導方法と、社員の成長を支援するための正しい指導のポイントをご紹介します。

感情的な指導が招く、会社のリスク

問題社員への対応は、企業の成長にとって大切な要素です。しかし、感情的になったり、一方的な叱責をしたりすることは、かえって事態を悪化させる可能性があります。

企業が感情的な指導をしてしまうと、以下のようなリスクが生じることが考えられます。

パワハラと判断される可能性:

  • 業務上の必要性を逸脱した言動は、パワハラと認定されるリスクがあります。
  • 個人の人格を否定するような発言や、他の社員がいる前での度を越した叱責は特に注意が必要です。

社員のモチベーション低下・退職:

  • 適切な指導が行われないことで、社員は会社への不信感を抱き、モチベーションを失うかもしれません。
  • 結果として、退職に至ったり、人材流出の原因になったりすることも考えられます。

企業の信用失墜・ブランドイメージの低下:

  • パワハラ問題などが表面化すると、企業の評判に大きな傷がつき、採用活動にも悪影響を及ぼす可能性があります。

訴訟リスク・損害賠償:

  • 最悪の場合、社員からの訴訟に発展し、多額の賠償金を支払う事態になることもあります。

このようなリスクを避けるためには、感情に流されず、客観的かつ建設的な指導を心がけることが大切です。

パワハラ防止法の理解と適切な指導の原則

企業が問題社員への指導を行う際には、法的な枠組み、特にパワハラ防止法(労働施策総合推進法)を正しく理解しておくことが重要です。

(1)パワハラ防止法の概要と企業の義務

職場におけるハラスメント防止対策は、2020年6月1日に「労働施策総合推進法」によって義務化されました。中小企業においても、2022年4月1日からはこの義務が適用されています。

この法律に基づき、事業主には以下のようなハラスメント対策を講じることが義務付けられています。

ハラスメントに関する方針の明確化と周知・啓発:

  • パワハラを許さないという方針を明確にし、就業規則等に規定するとともに、社員に周知・啓発することが求められます。

相談対応を含めた相談体制の整備:

  • 社員がハラスメントに関する相談ができる窓口を設置し、適切に対応できる体制を整える必要があります。

職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応:

  • 実際にハラスメントが発生した際には、速やかに事実関係を調査し、被害者と加害者への適切な措置を講じることが重要です。

合わせて講ずべき措置:

  • 相談者や行為者等のプライバシー保護、相談したことによる不利益な取扱いの禁止なども含まれます。

(2)「指導」と「パワハラ」の境界線

厚生労働省は、パワハラの定義を次の3つの要素を満たすものとしています。

1. 優越的な関係を背景とした言動:

  • 職務上の地位や人間関係など、行為者が相手よりも優位な立場にあることを利用した言動です。

2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動:

  • 業務上の指導や注意は、原則としてパワハラには該当しません。しかし、その目的を逸脱して行われたり、態様が過剰であったりする場合に、パワハラと判断される可能性があります。

3. 労働者の就業環境が害されること:

  • 言動により、社員が身体的または精神的な苦痛を感じ、働く上で支障が生じる状態を指します。

また、パワハラには以下の6つの類型があるとされています。

  • 身体的な攻撃(暴力など)
  • 精神的な攻撃(人格否定、侮辱など)
  • 人間関係からの切り離し(無視、仲間外しなど)
  • 過大な要求(到底対応できない量の業務指示など)
  • 過小な要求(仕事を与えないなど)
  • 個の侵害(プライベートな情報に過度に立ち入るなど)

業務上必要な指導や注意は、正当な行為でありパワハラにはあたりません。しかし、「業務上の必要性」や「相当性」を欠く場合、それはパワハラと判断される可能性が高まります。指導を行う際には、目的を明確にし、客観的な事実に基づいた建設的な内容であるか、受け手の人格を尊重しているかなどを意識することが大切です。

会社がとるべき対策:適切な指導と記録の徹底

問題社員への指導を適切に行い、企業の健全性を保つためには、次の対策を講じることが有効と考えられます。

(1)ハラスメントに関する方針の明確化と周知・研修の実施

  • 社内規定の整備: 就業規則やハラスメント防止規定に、パワハラの内容、相談窓口、懲戒に関する規定を明確に定めておくことが重要です。
  • 社員への周知徹底: 規定の内容を社員全員に周知し、理解を促すための説明会や書面での配布などを行いましょう。
  • 管理職・社員への研修: 管理職は特に、指導とパワハラの境界線を理解し、適切な指導ができるよう、定期的な研修を実施することが効果的です。社員全体にもハラスメントに関する意識を高める研修を行うことが望ましいでしょう。

(2)「記録」を徹底する重要性

問題社員への指導においては、指導内容や経過を客観的に記録することが極めて重要です。記録が不十分であると、万一トラブルになった際に、事実関係の証明が難しくなることがあります。

記録すべき内容は、例えば以下のような点が挙げられます。

  • 日時・場所: いつ、どこで指導を行ったのか。
  • 指導者・同席者: 誰が指導し、誰が同席していたのか。
  • 指導の目的: なぜその指導が必要だったのか。
  • 具体的な言動・事実: 指導のきっかけとなった社員の具体的な行動や言動(「〜の資料の提出が遅れた」「〜の業務でミスが繰り返された」など)。感情的な表現ではなく、客観的な事実を記載しましょう。
  • 指導内容: 具体的にどのような改善を求めたのか、どのような方法で指導したのか。
  • 社員の反応: 指導を受けた社員がどのように受け止め、何を話したのか。
  • 改善期間・目標: いつまでに、どのような状態に改善することを求めたのか。
  • 今後の対応: 改善が見られない場合の次のステップなど。

これらの記録は、社員の改善状況を追跡する上でも役立ち、また、指導が不適切ではなかったことを示す証拠にもなり得ます。

(3)段階的な指導と懲戒手続きの適正化

社員に改善が見られない場合、いきなり重い処分を下すのではなく、段階的な対応を検討することが一般的です。

  • 初期段階: 口頭での注意・指導を繰り返します。この際も記録を残すことが大切です。
  • 次の段階: 書面による注意・指導を行います。改善計画書の提出を求めたり、人事評価に反映させたりすることも考えられます。
  • 最終段階: 配置転換や降格、懲戒処分(減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇など)を検討します。
  • 懲戒処分の注意点: 懲戒処分は、就業規則に規定されていること、客観的に合理的な理由があること、社会通念上相当と認められることが必要です。また、社員に弁明の機会を与えるなど、適正な手続きを踏むことが求められます。

常に「指導の目的は社員の成長と組織への貢献を促すことにある」という視点を持ち、個々の状況に応じた柔軟かつ丁寧な対応を心がけることが大切です。

【まとめ】

問題社員への対応は、企業にとって非常にデリケートであり、重要な課題です。感情的な叱責や不適切な指導は、パワハラのリスクを高め、企業の信頼を損なうことにもつながりかねません。

  • パワハラ防止法の理解に基づき、企業としてハラスメントに対する明確な方針を掲げ、相談窓口の設置や研修などを通じて周知徹底することが重要です。
  • 指導を行う際は、客観的な事実に基づき、業務上の必要性と相当性を逸脱しない範囲で、人格を尊重した建設的な内容を心がけましょう。
  • 指導内容や経過は、必ず記録として残すことで、万一のトラブル発生時のリスクを軽減し、適切な対応を示すことができます。
  • 段階的な指導を行い、適正な手続きを踏むことが、社員の納得感を高め、企業の健全な労務管理に繋がります。

適切な指導を通じて、社員が成長し、企業全体の生産性向上と健全な職場環境が構築されることを願っています。ご不明な点やご不安な点があれば、是非当事務所へお問い合わせください。

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