パート従業員の皆さまの働き方に大きく影響する「年収の壁」対策について、企業として知っておくべきポイントを解説します。
社会保険適用拡大への対応や、従業員の皆さまとのコミュニケーションにお役立ていただけます。
貴社の人事・労務管理に潜む課題をクリアにし、働きやすい職場づくりを推進するための一助となれば幸いです。
課題:多様化する働き方と「年収の壁」問題
短時間労働者の社会保険適用拡大は、多様な働き方を促進し、より多くの従業員が安心して働ける環境を整備するために重要な政策です。しかし、その一方で企業の人事・労務担当者様からは、いくつかの課題が聞かれることもございます。
従業員の「働き控え」問題:
- 社会保険加入の要件を満たすことで、手取り収入が一時的に減少することを懸念し、「年収の壁」を超えないよう労働時間を調整する従業員の方がいらっしゃるかもしれません。これにより、人手不足の企業にとっては、必要な労働力を確保しにくくなる可能性があります。
企業の社会保険料負担増:
- 適用拡大により、新たに社会保険の加入対象となる従業員が増えることで、企業が負担する社会保険料が増加します。これにより、人件費全体の見直しや予算計画の再構築が必要になることが考えられます。
福利厚生制度の見直しと複雑化:
- 社会保険加入に伴い、退職金制度や企業型DC(確定拠出年金)など、既存の福利厚生制度の適用範囲や運用方法について見直しが必要になるケースもございます。また、給与計算実務においても、社会保険料の計算や控除に関する業務が複雑化することも予想されます。
制度のポイント:政府の「年収の壁・支援強化パッケージ」
政府は、こうした課題に対応するため、2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」を展開しています。これは、短時間労働者の社会保険加入を促進しつつ、手取り収入の減少を抑制するための重要な施策です。
1.「106万円の壁」への対策(社会保険適用促進手当・キャリアアップ助成金)
社会保険適用促進手当:
- 事業主が、社会保険適用により従業員の手取りが減少しないよう、賃上げを行う際に支給する手当です。
- この手当は、社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額や、雇用保険料の算定基礎となる賃金には含めないこととされています(最大2年間)。
- これにより、社会保険に加入しても、当初の手取り収入を維持しやすくなることが期待されます。
- この手当は、2025年度末までの時限措置とされています。
キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース):
- 短時間労働者を新たに社会保険に適用させ、賃上げや手当支給などを行う事業主に対し、国が助成する制度です。
- 「手当等支給メニュー」や「併用メニュー」などがあり、賃金規定の改定や、労働時間延長を伴う処遇改善など、企業の取り組み内容に応じて助成が受けられます。
- これらの助成金は、2025年度末までの時限措置として実施されています。
2.「130万円の壁」への対策(事業主の証明による扶養認定)
- 一時的に収入が増加したことで、扶養から外れてしまうことを防ぐための対策です。
- 具体的な内容は、パート・アルバイト従業員が、残業などによって一時的に年収が130万円を超えても、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養親族として認定される仕組みです。
- この措置は、連続2年まで利用できるとされており、急な働き方で扶養を外れる不安を軽減することを目的としています。
- この措置は、当面の間実施されることとされています。
3.社会保険適用拡大の現状
- 短時間労働者への社会保険適用は、段階的に拡大されてきました。
- 具体的には、2022年10月からは従業員数101人以上の企業で、そして2024年10月からは従業員数51人以上の企業で、短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上30時間未満など)が新たに社会保険の適用対象となっています。
- これらの改正は既に実施済みであり、現在の貴社の人事・労務管理に直接影響を与えている可能性があります。
会社がとるべき対策:今後の対応のポイント
貴社が、変化する「年収の壁」問題や社会保険適用拡大に適切に対応するためには、以下の点にご留意いただくことが大切です。
現状把握と影響分析:
- まず、貴社のパート・アルバイト従業員の中で、社会保険の新たな適用対象となる可能性のある方を特定しましょう。
- 現在の労働時間や賃金水準を確認し、社会保険料が発生した場合の企業負担額や、従業員の手取り額への影響を試算することが重要です。
従業員への情報提供とコミュニケーション:
- 社会保険の適用拡大や「年収の壁」対策について、従業員の皆さまへ正確かつ丁寧な情報提供を心がけましょう。
- 手取り減少への不安や、今後の働き方に関する疑問点について、個別に相談に応じる機会を設けることも有効です。
- 厚生労働省が開設している「社会保険適用拡大特設サイト」や年金事務所のウェブサイトには、短時間労働者向けの説明資料や手取り額のシミュレーターなども公開されていますので、参考にされると良いでしょう。
給与制度・評価制度の見直し:
- 社会保険加入による手取りの減少を補填する方策として、賃金体系の見直しや、キャリアアップ助成金を活用した処遇改善を検討されてはいかがでしょうか。
あわせて、パート従業員のしゅうぎゅ調整(働き控え)の一因となりやすい「配偶者手当」の支給基準を見直すことも、働きやすい環境づくりに有効です。
- また、従業員が意欲的に長く働けるよう、公正な評価制度やキャリアパスの提示も有効な手段となり得ます。
公的支援策の積極的な活用:
- 「年収の壁・支援強化パッケージ」として提供されている社会保険適用促進手当やキャリアアップ助成金は、企業にとっての負担軽減に繋がる重要な制度です。
- これらの助成金の要件や申請方法について、厚生労働省や独立行政法人(雇用・能力開発機構など)の情報を確認し、積極的に活用を検討しましょう。
専門家への相談:
- 社会保険制度は複雑であり、個別の事情に応じた対応が必要となる場合もございます。
- 給与計算実務の変更や、従業員への説明など、ご不明な点や不安な点があれば、専門家である社会保険労務士や労働局の相談窓口へ早めにご相談いただくことをお勧めいたします。
【まとめ】
「年収の壁」対策や社会保険適用拡大は、貴社の短時間労働者の働き方に影響を与える重要なテーマです。
- 政府の「年収の壁・支援強化パッケージ」には、企業が活用できる手当や助成金があります。
- 2024年10月からは、従業員数51人以上の企業における短時間労働者の社会保険適用が始まっています。
- 従業員への丁寧な情報提供とコミュニケーション、そして給与制度の見直しや公的支援策の活用が、企業にとっての成功の鍵となります。
これらの制度を正しく理解し、貴社の従業員にとってより良い働きがいのある職場環境を整備することが、今後の企業経営において大変重要になってくるのではないでしょうか。
ご不明点やご不安な点があれば、是非当社へお問い合わせください。
