営業職や在宅勤務の勤怠管理にお悩みの経営者様へ。
「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の要件、スマホを持たせる場合の注意点、残業代の計算方法について、Q&A形式でわかりやすく解説します。
はじめに
社員がオフィスを離れて働く場合、正確な労働時間を把握するのは難しいものです。こうしたケースで活用が検討されるのが「事業場外労働に関するみなし労働時間制」です。しかし、この制度は「外回りの営業なら無条件で適用できる」というものではありません。近年普及したテレワークや、スマートフォンによる連絡体制など、実務上の判断が難しいポイントをQ&A形式で解説します。
Q1.「事業場外労働に関するみなし労働時間制」とはどのような制度ですか?
A1.労働時間の算定が困難な場合に、あらかじめ定めた時間働いたとみなす制度です。
労働基準法第38条の2に基づくこの制度は、以下の要件を満たす場合に適用されます。
1.労働者が業務の全部または一部を事業場外で行っていること
2.使用者の指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難であること
この要件を満たす場合、原則として「所定労働時間」労働したものとみなすことができます。ただし、その業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて働くことが必要な場合は、「その業務の遂行に通常必要とされる時間(通常必要時間)」を労働したものとみなします。
Q2.営業社員に携帯電話を持たせていますが、この制度は適用できますか?
A2.「随時指示を受けられる状態」であれば、適用できない可能性が高いです。
単に携帯電話を持っているだけでは直ちに適用除外にはなりません。しかし、以下の場合は「使用者の指揮監督が及んでいる」と判断され、労働時間の算定が可能であるため、みなし労働時間制は適用できません。
•無線や携帯電話等で、随時使用者の指示を受けながら労働している場合
•訪問先や帰社時刻など、当日の業務について具体的な指示を受けている場合
行政解釈によると、携帯電話を持っていても「会社への報告義務がなく、緊急連絡用としてのみ持たせている」といった限定的な運用であり、社員の裁量に任されている実態があれば適用される余地はあります。しかし、近年の裁判例では、日報での報告義務や携帯電話による連絡体制があることを理由に、「労働時間の把握は可能」として制度の適用を否定するケースが多く見られます。安易な適用は未払い残業代のリスクとなるため注意が必要です。
Q3.テレワーク(在宅勤務)にも適用できますか?
A3.一定の要件を満たす「自由度の高い在宅勤務」であれば適用可能です。
在宅勤務でこの制度を適用するためには、原則として以下の要件をすべて満たす必要があります。
1.自宅で業務を行っていること
2.パソコン等の通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
3.随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
例えば、「9時から12時まで勤務」と時間を指定されたり、メール等で即時の返信を求められたりするような管理体制下では、労働時間の算定が可能とみなされ、この制度は適用できません。
Q4.午前中はオフィスで働き、午後から外回りをした場合の労働時間はどうなりますか?
A4.「オフィスでの実労働時間」+「外回りのみなし労働時間」で計算します。
労働時間の一部を事業場内(オフィス)で行った場合、その時間は別途把握しなければならず、みなし計算にはできません。この場合、1日の労働時間は「把握した事業場内の労働時間」と「みなし労働時間制により算定される事業場外労働の時間」を合計した時間となります。
計算例:
•所定労働時間:7時間30分
•外回りの通常必要時間:4時間(と仮定)
•内勤の実働時間:4時間30分
この場合、合計労働時間は8時間30分となり、所定労働時間を超える計算になります。
Q5.この制度を使えば、残業代を支払う必要はなくなりますか?
A5.いいえ、法定労働時間を超える「みなし時間」には残業代が必要です。
「みなし労働時間制」は、あくまで労働時間をどうカウントするかというルールのことです。算定された「みなし労働時間」(内勤がある場合は内勤時間との合計)が、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合、その超過分については時間外労働(残業)としての割増賃金の支払いが必要です。
また、深夜労働(午後10時~午前5時)や休日労働についても、実際の労働実績に基づいて割増賃金を支払う義務があります。
まとめ
「事業場外労働に関するみなし労働時間制」は、企業側の管理の手間を省く便利な制度に見えますが、適用要件(特に「労働時間の算定が困難」かどうか)は厳格に判断されます。実態と合わない運用を行うと、後から多額の未払い賃金を請求されるリスクがあります。
・自社の営業スタイルで適用が可能か?
・「通常必要とされる時間」をどう設定すべきか?(労使協定の締結など)
このような疑問をお持ちの企業様は、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。貴社の実態に即した適正な労務管理をご提案いたします。
