「毎月の給与計算、本当にこれで合っているのだろうか?」 従業員を雇う経営者様や人事担当者様にとって、給与計算は毎月必ず発生する重要かつ責任の重い業務です。しかし、労働基準法や社会保険のルールは複雑で、少しの計算ミスが未払い賃金トラブルや労働基準監督署の指導につながるリスクもあります。
今回は、給与計算の基本ルールから間違いやすい注意点まで、Q&A形式で分かりやすく解説します。
Q1.給与支払いの基本ルールとはどのようなものですか?
労働基準法で定められた「賃金支払いの5原則」を守る必要があります。
給与(賃金)は、会社が自由に支払ってよいものではありません。労働者の生活を守るため、以下の5つの原則が法律で義務付けられています。
- 通貨払いの原則:現金で支払うのが原則です(現物支給は原則禁止)。ただし、労働者の同意があれば銀行振込などが可能です。
- 直接払いの原則:本人に直接支払う必要があります。たとえ親や代理人であっても支払うことはできません。
- 全額払いの原則:税金や社会保険料など法令で決まっているものを除き、全額を支払わなければなりません。会社が勝手に罰金などを天引きすることは禁止されています。
- 毎月1回以上払いの原則:少なくとも月に1回は支払う必要があります。
- 一定期日払いの原則:「毎月25日」のように特定の日を決めて支払わなければなりません。
【ここがポイント!】 遅刻や欠勤をした時間分の賃金を引く(ノーワーク・ノーペイ)ことは認められますが、就業規則などの根拠なく「遅刻1回につき罰金1万円」のように、働いた分の賃金から一方的にペナルティを天引きすることは違法となる可能性が高いため注意が必要です。
Q2.残業代(割増賃金)の計算方法と注意点を教えてください。
「1時間あたりの賃金単価」を正しく算出し、適切な「割増率」を掛ける必要があります。
給与計算で最もミスが起きやすいのが残業代です。以下のステップで確認しましょう。
1.割増率の確認
原則として、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働かせた場合は25%以上、法定休日に働かせた場合は35%以上の割増賃金が必要です。 また、午後10時から午前5時までの深夜労働にも25%以上の割増が必要です。
2.計算の基礎となる賃金(単価)の算出
月給制の場合、「月給額÷1年間の1ヶ月平均所定労働時間」で1時間あたりの単価を出します。 ここで重要なのが、「計算に含めなくてよい手当」は限定されているという点です。 以下の手当以外は、原則としてすべて計算の基礎に含めなければなりません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
【ここがポイント!】 例えば「住宅手当」という名称でも、全員に一律定額で支給しているような場合は、計算の基礎から除外できず、残業代の計算ベースに含める必要があります。ここを間違えると、残業代の単価が低くなり、結果として「未払い」となってしまいます。
Q3.社会保険料の控除額はどうやって決まるのですか?
毎年1回見直される「標準報酬月額」に基づいて決定されます。
厚生年金保険料や健康保険料は、毎月の給与額そのものに料率を掛けるのではなく、給与を一定の範囲で区分した**「標準報酬月額」**に保険料率を掛けて計算します。
標準報酬月額が決まる(変わる)タイミングは主に3つです。
- 資格取得時:入社した時。
- 定時決定(算定基礎届):毎年4月・5月・6月に支払われた給与の平均額を基に、その年の9月から新しい等級に改定します。
- 随時改定(月額変更届):昇給や降給で固定給が変動し、その後3ヶ月間の平均額が現在の等級と比べて「2等級以上」差が生じた場合などに改定します。
【ここがポイント!】 賞与(ボーナス)からも社会保険料を控除する必要があります。賞与の場合は「標準賞与額(1,000円未満切り捨て)」に保険料率を掛けて計算します。 「随時改定」の手続き漏れはよくあるミスの一つです。昇給時に保険料の変更を忘れていると、後からまとめて徴収することになり、従業員とのトラブルになりかねません。
Q4.「固定残業代(みなし残業)」を導入していれば計算は楽になりますか?
導入しても計算や管理が不要になるわけではなく、運用には厳格なルールがあります。
「毎月〇〇時間分の残業代として〇〇円を支払う」という固定残業制は便利に見えますが、以下の点に注意しなければ法的に無効とされるリスクがあります。
- 明確な区分:基本給と固定残業代が明確に分かれていること。
- 差額の支払い:実際の残業代が固定残業代を上回った場合は、その差額を必ず追加で支払うこと。
- 就業規則への明記:残業代の定額払いであることを明記し、従業員に周知すること。
「手当を出しているからこれ以上残業代は払わない」という運用は認められません。結局は毎月の労働時間を正確に把握し、計算する必要があるのです。
Q5.給与計算のミスにはどのようなリスクがありますか?
未払い賃金の請求(過去3年分)や、労働基準監督署の是正勧告を受ける可能性があります。
賃金の消滅時効は現在3年(2020年4月以降、当分の間)となっています。もし計算ミスで未払いが発生していた場合、退職した従業員から過去3年分に遡って請求されるリスクがあります。 また、労働基準監督署の調査が入った場合、悪質な「賃金不払残業(サービス残業)」とみなされると是正を求められます。
正確な給与計算は「会社の信頼」を守ること
給与計算は単なる事務作業ではなく、法律に基づいた適正な運用が求められる専門業務です。 「今の計算方法で合っているか不安」「法改正に対応できているかわからない」という経営者様は、ぜひ一度、給与計算のプロフェッショナルである社会保険労務士にご相談ください。 当事務所では、最新の法令に対応した正確な給与計算代行や、リスクのない賃金体系の構築をサポートいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。
