市場の変化により、「一時的に仕事が減ったが従業員の雇用は守りたい」「即戦力の人材が急に必要になった」といった課題を抱える企業が増えています。そこで、柔軟な人事戦略として注目されているのが「在籍型出向」です。
本記事では、雇用維持と人材育成を同時に叶えるこの制度について、仕組みや導入時の法的留意点、契約実務をQ&A方式で解説します。
Q1.そもそも「在籍型出向」とは?派遣とは何が違うのですか?
社員が自社に籍を置いたまま、別の会社で働く仕組みです。
在籍型出向とは、出向元企業(送り出す側)と出向先企業(受け入れる側)の間の出向契約に基づき、労働者が出向元・出向先の双方と雇用契約を結び、出向先企業で一定期間勤務することを指します。よく混同される「労働者派遣」とは、契約形態と指揮命令系統において明確な違いがあります。
- 在籍型出向: 労働者は出向先とも「雇用関係」を結び、出向先の指揮命令を受けます。
- 労働者派遣: 労働者は派遣元とのみ雇用契約を結び、派遣先とは「指揮命令関係」のみが生じます。
本来、他人の指揮命令下で働かせる労働者供給事業は禁止されていますが、雇用機会の確保や技術指導、職業能力開発などを目的とする在籍型出向は、適法に行うことができます。
Q2.企業にとって、どのようなメリットがあるのでしょうか?
「雇用維持・コスト抑制」と「人材確保・育成」の双方にメリットがあります。
出向元と出向先、それぞれの主なメリットは以下の通りです。
【出向元企業のメリット】
- 雇用維持: 仕事が減少した時期でも、解雇することなく雇用を維持でき、従業員の安心感につながります。
- 人材育成: 自社では得られない経験を積むことで、キャリアアップや能力開発につながります。
- 組織活性化: 出向期間終了後、従業員が戻ってきた際に、外部で得た知見が自社の業務改善や活性化に寄与します。
【出向先企業のメリット】
- 即戦力の確保: 必要な期間、社会人スキルや専門能力を持った人材を確保でき、自社従業員の業務負担を軽減できます。
- 採用コスト減: 新たに採用・育成するよりもコストを抑制できる場合があります。
Q3.従業員に出向してもらうには、どのような手続きが必要ですか?
就業規則の整備、本人への丁寧な説明と同意、そして契約締結が必要です。
トラブルを防ぐため、以下のステップを踏むことが推奨されます。
- 就業規則の整備と同意:在籍型出向を命じるには、就業規則に出向規定があり、労働者の利益に配慮されていること、または労働者の個別同意が必要です。
- 労使の話し合い:出向の必要性や期間中の労働条件についてよく話し合い、労働者の納得を得ることが重要です。
- 契約の締結:企業間で出向契約を結び、労働者に対して労働条件を明示します。
特に注意すべきは「権利の濫用」です。出向の必要性が低い、人選が不合理(退職強要目的など)といった場合、出向命令が無効となる裁判例もあります。
Q4.給与の支払いや社会保険の手続きはどうなりますか?
企業間の取り決めによりますが、社会保険は出向元に残すのが一般的です。
金銭面や保険関係は複雑になりがちなため、事前の取り決めが重要です。
- 給与:出向元が支払って出向先から負担金を受け取るケースや、出向先が直接支払うケースなどがあり、企業間の話し合いで決定します。税務上、不合理な負担割合は「寄附金課税」の対象となる可能性があるため注意が必要です。
- 社会保険(健保・年金):一般的に出向元で被保険者資格を継続します。
- 労災保険:実際に働く出向先企業で適用されます(保険料は出向先負担)。
- 雇用保険:生計を維持する主たる賃金を受けている方の企業で被保険者となります。
Q5.出向契約書には何を記載すべきですか?
期間、業務内容、費用負担、復帰条件などを明確にします。
後々のトラブルを避けるため、契約書には以下の事項を明記しておくべきです。
- 出向期間(開始日と終了日)
- 職務内容、勤務地、勤務時間
- 賃金(給与)の負担割合と支払い方法
- 社会保険・労働保険の取り扱い
- 守秘義務
- 出向終了後の復帰に関する条件
特に出向元企業は、出向期間終了後に出向労働者を自社に復帰させることを前提とします。
在籍型出向の制度設計・契約書作成は当事務所へご相談ください。
在籍型出向は有効な人事戦略ですが、実施には「就業規則の変更」「税務・社会保険の適正な処理」など、高度な専門知識が求められます。
- 自社の就業規則で出向命令が出せるか確認したい
- 給与負担や社会保険の手続きについて相談したい
このようなお悩みをお持ちの経営者様は、ぜひ一度当事務所までご相談ください。貴社の状況に合わせ、労務トラブルのリスクを抑えた制度導入を支援いたします。
