適切な対策を講じることで、貴社の人手不足解消と従業員の定着・活躍を促すきっかけになるかもしれません。
本記事を通して、具体的な制度のポイントと、貴社が今とるべき対策へのヒントをお持ち帰りいただけます。
年収の壁問題で企業の人手不足は解消されるのか?
多くの企業様にとって、慢性的な人手不足は喫緊の課題ではないでしょうか。特に、短時間で働く従業員の方々の「年収の壁」は、人手不足を一層深刻化させる要因の一つとして認識されています。
政府もこの問題に対して様々な対策を講じており、企業側もこれらの制度を理解し活用することで、働きやすい環境を整備し、人材確保に繋げることが期待されています。
1.企業の「人手不足」と「年収の壁」が抱える課題
現在、多くの業界で人手不足が深刻化しており、これは企業の生産性や競争力に大きな影響を与えています。
その中で、特にパート・アルバイトといった短時間労働者の採用は難しい局面を迎えている企業様も少なくないでしょう。
- 労働力人口の減少
少子高齢化の進展により、労働力人口は減少傾向にあり、採用活動はますます厳しさを増しています。
- 「年収の壁」による働き控え
短時間で働く従業員の方々は、社会保険料の負担や税金の発生を避けるため、特定の収入を超えないように労働時間を調整する傾向があります。これが「年収の壁」として知られており、主に以下の二つの壁が挙げられます。
- 106万円の壁:特定の条件を満たす短時間労働者が、社会保険への加入義務が生じる収入ラインです。
- 130万円の壁:夫や妻など扶養者の社会保険の被扶養者から外れる収入ラインです。
- 企業の採用難と生産性への影響
従業員が働き控えをすることで、企業としては必要な労働力を確保しにくくなり、結果として人手不足が解消されず、生産性の低下にも繋がりかねません。
2.「年収の壁」対策のポイントと制度の現状
政府は、こうした「年収の壁」による働き控えを解消し、短時間労働者が安心して社会保険に加入したりより長く働くことができるよう、様々な支援策を実施しています。
社会保険の適用拡大(106万円の壁)への対応
短時間労働者の社会保険適用拡大は、すでに段階的に進められています。
現行(2026年3月現在)では、以下の要件をすべて満たす方が社会保険の適用対象となります。
- 従業員数:従業員数51人以上の企業
- 週の所定労働時間:週20時間以上。
- 月額賃金:月額8.8万円以上。
- 雇用期間の見込み:2ヶ月を超える雇用の見込みがあること。
- 学生でないこと:昼間学生でないこと。
貴社がこれらの条件に該当する場合、従業員の方への丁寧な説明と、給与計算実務における社会保険料控除への対応が必要となります。
130万円の壁への「年収の壁・支援強化パッケージ」
「年収の壁・支援強化パッケージ」は、2023年10月から導入されている時限的な措置です。これは、従業員の方が「130万円の壁」を意識せずに働けるよう、企業と従業員を支援する内容となっています。
1.事業主の配慮による手当等の支給
従業員が繁忙期等で一時的に収入が増加し、130万円を超過してしまった場合でも、事業主が人手不足による労働時間延長等への配慮を行ったと認められるケースにおいては、連続2年までなら引き続き扶養に入ることができるという仕組みです。これは、年金事務所で事業主による証明書を提出することで認められる場合があります。
2.社会保険適用促進手当
新たに社会保険の適用となる短時間労働者の方を対象に、事業主が手取り収入の減少を補填するために支給する手当です。この手当は、社会保険料算定の基礎となる標準報酬月額や標準賞与額には含めません。これにより、従業員の方が社会保険適用によって手取りが減ることを懸念せず、就業調整せずに働くことを促す効果が期待できます。
3.会社が今とるべき「年収の壁」対策と福利厚生制度の見直し
貴社が人手不足を解消し、従業員の方々が安心して長く働ける環境を整えるためには、年収の壁対策を積極的に検討することが重要です。
- 従業員への積極的な情報提供と説明
年収の壁対策の制度は複雑に感じられることもあります。従業員の方々が制度を正しく理解し、安心して働けるよう、企業として積極的に情報提供を行うことが大切です。年金事務所や労働局、厚生労働省のWebサイトなどで最新の情報を確認し、疑問点に丁寧に答える体制を整えることが望ましいでしょう。
- 給与計算実務における柔軟な対応
社会保険適用促進手当などの導入を検討する場合、給与計算実務において適切な処理を行う必要があります。新たに発生する手当の種類や計算方法について、給与計算担当者への周知徹底や、必要に応じて給与計算システムの改修も視野に入れると良いかもしれません。
- 社内制度や福利厚生の見直し
短時間労働者の方々がキャリアアップを目指せるような制度を整えることも、定着率向上に繋がります。例えば、正社員転換制度の導入や、スキルアップ研修の実施、あるいは育児・介護と両立しやすい柔軟な勤務形態の導入などが考えられます。
- 専門家への相談
年収の壁対策は、社会保険制度、税制、給与計算、助成金など多岐にわたる知識が必要となります。ご不明な点や不安な点があれば、社会保険労務士などの専門家にご相談いただくことで、貴社の状況に合わせた具体的なアドバイスを受けることができます。
【まとめ】
「年収の壁」問題は、企業の抱える人手不足と密接に関わっています。政府による「年収の壁・支援強化パッケージ」や社会保険適用拡大への対応は、短時間労働者の働き方を後押しし、ひいては企業の安定的な人材確保に繋がる可能性を秘めています。
- 106万円の壁対策:既に適用拡大が進んでおり、貴社の状況に応じた社会保険適用の準備が重要です。
- 130万円の壁対策:「年収の壁・支援強化パッケージ」を活用し、従業員の働き控えを解消することが期待されます。
これらの情報を踏まえ、貴社の人事・労務管理体制を見直す良い機会となるでしょう。ご不明点やご不安な点があれば是非当事務所へお問い合わせください。
