ビジネスのグローバル化に伴い、海外市場へ販路を拡大する日本企業が増加しています。しかし、事業計画や市場調査には余念がない一方で、現地で働く「人」の管理、すなわち「人事労務管理」の準備は後回しにされがちです。
日本とは異なる法規制や商習慣の中で、準備不足のまま従業員を送り出すことは、企業にとって大きなリスクとなります。 本記事では、海外進出を検討中の企業様に向けて、社会保険労務士の視点から、進出前に必ず押さえておきたい人事労務の基礎知識を解説します。
1. 「日本の常識」を捨てる:現地の労働法とコンプライアンス
日本に労働基準法があるように、進出先の国にも独自の労働法制が存在します。 例えば、日本企業進出が多い中国、アメリカ、シンガポール、タイなどの国々であっても、雇用契約、残業規制、解雇のルールはそれぞれ全く異なります。
よくある失敗例として、日本の就業規則をそのまま現地の言語に翻訳して使用してしまうケースが挙げられます。現地の法律に適合していない規則は無効となるだけでなく、労使トラブルや現地当局からの指摘を招く原因となります。 進出にあたっては、各国の最新の法規制を調査し、現地の法律を順守(コンプライアンス)した労務管理体制を構築することが不可欠です。
2. 海外赴任者の給与決定:公平性と納得感のバランス
海外駐在員の給与設定は、国内勤務時とは異なる視点が必要です。ここで重要となるのが、「国内勤務時と同等の生活水準を維持しつつ、過剰なコスト増を防ぐ」というバランス感覚です。
海外では、為替レートや物価変動の影響を直接受けます。そのため、単に日本円の給与を支払うのではなく、現地の購買力(モノを買う力)を考慮した手当や、ハードシップ(生活環境の厳しさ)に応じた処遇を検討する必要があります。 明確な基準がないまま給与を決めると、赴任者間で不公平感が生まれたり、企業側が想定以上のコストを抱えたりすることになります。合理的で透明性のある給与テーブルの設計が求められます。
3. 複雑な「税務」と「社会保険」の手続き
海外に長期間滞在して働く場合、日本の税法上は「非居住者」として扱われることが一般的です。居住者か非居住者かによって、所得税の課税範囲や納税方法が大きく変わるため、人事担当者はこの区別と手続きを正確に理解しておく必要があります。
また、社会保険(健康保険・厚生年金)についても注意が必要です。「日本の社会保険資格を継続できるのか」「現地の制度に加入義務があるのか」は、派遣期間や進出先との社会保障協定の有無によって異なります。 手続き漏れは従業員の将来の年金受給権などにも関わるため、専門的な知識に基づいた運用が必要です。
4. 従業員と「帯同家族」を守る安全配慮
海外赴任の成功を左右する隠れた要因、それは「帯同家族の生活」です。 慣れない海外生活でのストレスや医療事情への不安は、従業員本人だけでなく、一緒に渡航するご家族にとっても大きな負担となります。もしご家族が心身の調子を崩してしまえば、従業員は業務に専念できず、最悪の場合は任期途中で帰国せざるを得ない状況にもなりかねません。
企業には、現地の医療保険への加入手配やメンタルヘルスケアなど、従業員とその家族が安心して暮らせる環境を整える「安全配慮義務」が、国内以上に求められることを忘れてはいけません。
まとめ:海外労務のリスク対策は専門家へ
海外進出における人事労務は、労働法、税務、社会保険、そして生活サポートと、多岐にわたる専門知識が必要です。これらを社内のリソースだけで完璧に対応するのは非常に困難であり、リスクも伴います。
トラブルを未然に防ぎ、海外ビジネスを軌道に乗せるためには、海外進出サポートの実績がある専門家の力を借りることが近道です。 当事務所では、企業の海外展開に伴う労務課題の解決をサポートしています。就業規則の作成から給与設計まで、まずはお気軽にご相談ください。
